「Ericeira World Junior Championships」

 2015年度のジュニアチャンピオンを決めるのは、昨年と同じ舞台のポルトガル。会場はエリセイラのリベイラ・ディリャスビーチが選ばれた。しかし、クローズが続いたため、バックアップビーチとしてのエリセイラのハーバー(プライア・ドス・ペスカドーレス)に移動して、試合はスタート。

 セカンドロケーションであるエリセイラのハーバー(プライア・ドス・ペスカドーレス)は、レフトブレイクがメイン。湾になっているおかげで波のサイズは3-4フィートながら、潮に左右されるクセのある波だ。さらに、雨風が強いストーミーが毎日続くコンディション。これには選手、スタッフも右往左往。波だけでなく、寒さという天候とも戦う日々となった。

 会場は潮により出来る時間が限られ、毎日、コマ切れながら進行。このままこの会場で終了かと思われたが、最終日の2日前には波も落ち着き、初めてメイン会場に戻り試合が再開される。天候も回復し、素晴らしいコンディションでジュニア世界一を決めることができた。

 WSLの各リージョナル7地域(北米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、ハワイ、日本)からは、男子48名、女子18名がこの大会に集結。日本からは大原洋人、新井洋人、稲葉玲王、都筑百斗、渡辺寛、森友二に加え、ワイルドカードに安井拓海。女子では須田那月、川合美乃里というメンバーが今大会に臨んだ。

 女子の結果から。まず大会初日は女子からすぐに試合がスタート。R-1の3人ヒートに臨むものの、クセのある波に翻弄され、1位通過できずR-2に回る。1日空けてR-2のマンオンマン。川合は作戦どおりポジショニング、攻め方を指示どおりまとめ、前半をリード。タイムアップが近づく中、このままラウンドアップかと思われたが、最後の最後に逆転され、ここで敗退。やれることはやったが、現在のスキルではここまで。

 須田のR-2。自分なりに作戦を立てて試合に臨むもポジショニングに迷いが出て、自分の演技が全くできずに終了。この大会に賭けて先シーズンを終え、練習に励んだものの悔いのある結果となったことを反省。もう一度、一からやり直して今シーズンを戦うことを誓った。

 続いて男子。WJC初参戦組から。まずは都筑百斗、森友二。年齢も若いことで、思いっきりやることを期待するも、逆に世界という舞台で緊張したのか、まったく自分の波乗りすら出来ず。やはり経験の少なさが仇となったか、R-2で終了。33位という結果となった。

 稲葉玲王、安井拓海、渡辺寛この3人は世界ジュニア経験者。普段から自分のペースを作ることができ、十分戦える力を持っている。しかし、やはり難しいコンディションからか、経験を積んだ彼らでも自分の良さが出せずに、渡辺はR-2で敗退。稲葉、安井はR-3で敗退、17位という結果で今大会を終了した。

 ワールドランキング選抜組の大原洋人、新井洋人。この2人は経験があるだけでなく、修羅場をくぐってきただけのことはあり、R-1は1位通過でR-3へ。そのR-3では大原が圧巻の演技、9.33、9.93で合計19.26ポイントとデイリーニュースに載るほどの圧倒的な強さを見せた。
 
 もう一人の洋人、新井はR-3で稲葉玲王と対戦。ここは新井が辛くも逃げ切りラウンドアップ。続けてR-4では大原対新井という再び日本人対決となる。このヒートは大原が全般をリードするも、新井はエクセレントの8.00ポイントを持ち、6.83ポイントで逆転というシチュエーション。しかし、最後まで待った逆転の波は来ず、大原がQFへ進出。新井は9位という結果で世界ジュニアを終わる。

 大原のQFの相手はソリ・ベイリー(AUS)。日が明けぬままスタートしたこの対戦では、相手に先攻を許し、インサイドでもスコアを積み上げられ、万事休す。最後まで、優先権を持ち、沖でセットを待つも逆転できずにここで敗退。5位という成績で終了した。優勝は男子がルーカス・シルベイラ(BRA)。女子はイザベラ・ニコルズ(AUS)という結果。おめでとう!

 公式では無いものの、今まで各地域の力を見る指針として、リージョナル7地域の男子トップ4人の獲得ポイントの合計を計算してきた。しかし、新しく各国の枠組みが変わり、リージョナル間でも人数の偏りが見られるようなり、単純に数値で判断することができなくなった。

 ただ、言えることはブラジルのあるサウスアメリカ、ヨーロッパが、さらに力をつけていることは間違いなく、ハワイ、ノースアメリカ、オーストラリアの三強もジュニアの教育を再度見直し、組織的に力を入れている。

 日本でもメーカーのサポートが少しずつ拡充し、個人的にもコーチングを取り入れた選手が増えたこと。これは大きな進歩だ。しかし、大原など一部の選手に結果が出ているものの、全体の底上げになっていない。個々の実力は上がっていると言われながらも、全体的には結果が伴っていない。

 それはなぜか?今回、選手を見て気付いたこと。それは日本特有の精神論が足かせになっている可能性があるということ。「これをクリアできなければ、次に進めない」という考え方が、サーフィンでは未だ多数を占め、選手に対し100%を求めるという体質があるからではないだろうか。

 せっかく個々のレベルで、トレーニングやコーチングが取り入れられたのなら、それぞれのやり方で進めれば良いはずだ。しかし、日本人の生真面目から来る完璧主義。それを無意識に押し付けているのではないだろうか?そういう考え方が、選手を縛りつけているのではないか?選手自身も無意識にそれを当たり前だと思っていないだろうか?

 戦いに勝つためには、毎回、変わる波の状況、相手選手、そして、自身のコンディション。それに対し、常に平常心をキープできることが必要だ。だから、これを100%完璧にして臨めという考え方が推奨されるのもわかる。しかし、毎回違う状況なのに、同じようにできると信じていることは、実は妄想に過ぎず、実際、それは不可能だ。

 ならば、こう考えたらどうか。試合において毎回完璧に仕上げるのは無理だ。だから、スキル(技術)、メンタル(精神)、エキップメント(道具)、タクティクス(作戦)の4つに分けてみる。その時のコンディションに合わせ、この4つで100%にすれば良いという考え方。スキルは日々の積み重ねのものだから、これは練習を重ねるしかないが、メンタル、エキップメント、タクティクスはその時の調子で高めれば良い。

 板が会場の波に合わないなら、作戦を立てれば良いし、それを補うメンタルで試合に臨めば良い。この4つのどれかが劣っているならば、これ以上落とさないこと。さらに、今、調子の良いものは、それ以上に伸ばしカバーすること。こう考えれば、落ち着いて試合に臨めないか。

 この4つそれぞれを100%にするのは無理なこと。できるとしても、ケリー・スレーターぐらいなものだ。そのケリーでも試合に負けることもあるのだから、「絶対」はない。自分より実力のある選手が必ず勝つわけでなく、負ける理由はこのバランスが取れていないからだ。ならば、選手はこれをどれだけバランスよくキープできるか。これを上手く揃えることで、前より勝率が上がるはずだ。

 元より日本人選手は精神論から入りがちだと思う。そして、回りも含め、すべて完璧を求め過ぎだと思う。だから、試合でガチガチになって、自分の演技ができない。そして、結果、自分を責める。男子に限れば、日本人選手のスキルは他の国に決して劣っているわけではない。単に戦い方、試合への臨み方を知らないだけだ。

 日本が世界に追いつけ追い越せとやってきたこと。国内の組織のバッグアップ体制の拡充、メーカーの育成システムの構築、そして、選手自身を含むサポーターの意識改革。日本のサーフィンを変えるべく、他国を真似て、一心不乱に行って来た。しかし、ここで限界も見えている。

 では、どうしたら良いか。現在、選手自身が経験を積み、コーチングを求め、トレーニングを重ねている。それを全体主義でくくるのではなく、個々のやり方を尊重すべき。コーチングも十人十色だし、それぞれがそれぞれのペースで進めることをもっと推奨すべきだろう。

 JJPでは、選手にはどうしたいか、自分の行動を自分で決めてもらっている。それは最終的に試合結果は自分の責任として受け止めて欲しいから。自分の判断で行っていたことが、結果に出る。当たり前のことだ。だから、アドバイスはする。でも、こうしろあーしろとは、一切言わない。選択肢を提示することで、自分で考え、判断することを教えている。( 試合の作戦とは違います。)

 元来、この競技はパーソナルなもの。だから、個々の才能を伸ばすには、もっと自由にやれば良いという考え方を持つこと。放任ではない。日本のサーフィンが一つステップを上がったのだと思ってほしい。

 JJPは4年目、大会フォローとしては5戦目となった。選手の育成はメーカーが主体となって行うのが世界では常識。しかし、日本は世界ブランドにおいて日本支社という立場からバジェットが無い。そこで、メーカーの育成システムができるまでの肩代わりとしてこのプロジェクトが始まった。

 これまでは世界基準にて、選手の育成システムの在り方を徹底して推し進めて来た。だが、今、選手自身がここまでできるようになったのなら、各々のやり方を尊重することが重要だと考える。それをメーカーが、改めてどうバックアップするのか、という新しい段階に来ていると思う。

 メーカー主導の育成は必須であるものの、個人の才能をどこまで伸ばせるか、活かせるかは、こういう自由な考え方だ。「答えは一つではない。」100人いたら100通りあるという考え方が浸透すれば、ジュニア選手はもっと上を目指せるようになるのではないだろうか。

 正式発表ではないが、来年からは男子もWCTフォーマットになる予定だ。そうなれば人数も48人から36人になる。代表も今の6人から4人へ。国内だけでなく、世界での戦いも厳しいものになると予想される。だから、新しい段階に向け、ここで大きく舵を切り直すことも必要だ。

 そして、最後に。今年も応援ありがとうございました!この活動にご理解、ご支援、本当にありがとうございます!まだ道のりは半ば、これからも皆様の力が必要です。選手のバックアップ、フォローを引き続きよろしくお願いします!

Ericeira World Junior Championships

期間:2016.1/4-13
会場:ポルトガル / エリセイラ /リベイラ・ディリャス、プライア・ドス・ペスカドーレス

・Mens

優勝: Lucas Silveira (BRA)
2位 : Timothee Bisso (GLP)
3位 : Soli Bailey (AUS)、Leonardo Fioravanti(ITA)
5位 : 大原洋人 (JPN)、Mihimana Braye (PYF)、O'Neill Massin (PYF)、Kanoa Igarashi (USA)

・Womens

優勝: Isabella Nichols (AUS)
2位 : Mahina Maeda (HAW)
3位 : Teresa Bonvalot (PRT)、Holly Wawn(AUS)
5位 : Tia Blanco (USA)、Camilla Kemp (PRT)、Dax McGill (HAW)、Melanie Giunta (PER)

※日本人成績

・Mens

QF / 5位 大原洋人
R-4 / 9位 新井洋人
R-3 / 17位 稲葉玲王、安井拓海
R-2 / 33位 森友二、都筑百斗、渡辺寛

・Womens

R-2 / 13位 川合美乃里、須田那月


※大会 HP

・Mens

http://www.worldsurfleague.com/events/2016/mjun/1543/mens-ericeira-world-junior-championships

・Womens

http://www.worldsurfleague.com/events/2016/wjun/1544/womens-ericeira-world-junior-championships

・大会 フォト

大原 洋人(オオハラ・ヒロト)
大原 洋人(オオハラ・ヒロト)
大原 洋人(オオハラ・ヒロト)
右)大原 洋人、左)新井 洋人
新井 洋人(アライ・ヒロト)
新井 洋人(アライ・ヒロト)
新井 洋人(アライ・ヒロト)
稲葉 玲王(イナバ・レオ)
稲葉 玲王(イナバ・レオ)
稲葉 玲王(イナバ・レオ)
安井 拓海(ヤスイ・タクミ)
安井 拓海(ヤスイ・タクミ)
安井 拓海(ヤスイ・タクミ)
森 友二(モリ・ユウジ)
森 友二(モリ・ユウジ)
森 友二(モリ・ユウジ)
都筑 百斗(ツヅキ・モモト)
都筑 百斗(ツヅキ・モモト)
都筑 百斗(ツヅキ・モモト)
渡辺 寛(ワタナベ・カン)
渡辺 寛(ワタナベ・カン)
渡辺 寛(ワタナベ・カン)
川合 美乃里(カワイ・ミノリ)
川合 美乃里(カワイ・ミノリ)
川合 美乃里(カワイ・ミノリ)
須田 那月(スダ・ナツキ)
須田 那月(スダ・ナツキ)
須田 那月(スダ・ナツキ)
Ericeira World Junior Championships
Ericeira World Junior Championships
Ericeira World Junior Championships
WSL世界ジュニアチャンピオン優勝は、男子がルーカス・シルベイラ(BRA)。女子はイザベラ・ニコルズ(AUS)

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